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今混東西#6
めざすは地方のエンジン
こんこんから広がる
村松さんと仲間たちの物語


古今東西。
「昔から今まで、東西四方のあらゆる所」をあらわすことばで、
「いつでもどこでも」という意味としても使われます。
歴史が根付く街・京都は、昔と今が混ざり合う場所。
しかし、そこで生まれる化学反応は「昔」と「今」という組み合わせだけでしょうか?

今混東西。
辞書をめくっても、この四字熟語の意味は書いてありません。
仕事も、背景も、興味関心も違う人々が集うこんこんは、「今」が混ざり合う場所。
いろんな「今」が集まり、新しい何かが起きようとしています。
ドアの向こうには、どんな「今」が待っているのでしょうか。
 それでは、訪ねてみましょう。“こんこん”


迷路のように入り組んでいるこんこん。まだあまり上ったことがない敷地奥にある階段を上がり、最上階にあるコンテナのドアをいつものようにノックする。今混東西、第6回目にしてようやく上階のオフィスにお邪魔した。


こんこん最上階にある株式会社エフアイシーシーのオフィス。

「こんこん」

迎え入れてくれたのは、ブランドマーケティングをサービスとして提供している株式会社エフアイシーシー(以下、FICC)のプロデューサー・村松勇輝さん。木目調の室内はコンテナのクールな外観とは対照的にどこか温かみが感じられ、村松さんのラフな服装も相まって一瞬海の家にでも来てしまったのかと錯覚してしまった。コロナ禍でFICCもほとんどリモートワークになっているようで、この日もオフィスには村松さん一人だけ。取材のためだけにわざわざこんこんに来てくれたのかと聞くと「このまま今日はこっちで仕事するつもりだったんで」と村松さんは笑う。この海の家のお兄さんのような方と「ブランドマーケティング」というワードがどのように結びつくのだろうか。早速お話をうかがってみた。


京都オフィスの事業部長を務める村松さん。学生の頃からレゲエが好きだという。

村松さんは、東京で2004年に創業した時から所属しているFICCのスターティングメンバー。きっかけは、通っていたレゲエバーを通じて、たまたま当時の社長(現会長)と出会って気に入られたこと。大学卒業の少し前から立ち上げに参加し、そのまま入社したという。

「高校時代、美術の予備校に通って、何かしらデザインの仕事がしたいなって漠然とした理由から美大に行きました。家具やプロダクトが好きだったのでプロダクトデザインもいいなあと思ってたんです。でも、自分の中では大量生産・大量消費の時代にゴミがめちゃくちゃ増えるのが嫌で、そんなもののデザインはしたくないなと思って。そんな時、インターネットの世界に気づいたんです。デジタルのデータっていくらつくってもゴミにはならないじゃないですか。正確に言えば、サーバーとかハードディスクはあるんですけど、何かをつくってもPC上のゴミ箱に入れて空にすればなくなるのでゴミは出ないなと。この業界なら、ゴミのことを気にせずにつくり続けられると。そう思ったのが、デジタルの世界で仕事をするきっかけでした」。

入社当初はデザイナーだった村松さん。しかしご本人曰く「どう考えても俺よりデザイン上手いやつが、いっぱいいる」ということに気づいたそうで、少人数のチームだったこともありデザイナーをしながらサポート役を担ううちに自身はディレクターに。クライアントとのやりとりから、今はプロジェクト設計までを担当している。

そして創業から8年、主戦力のエンジニアが京都に戻らなければならなくなったタイミングに合わせ、京都オフィスが誕生。村松さんはそのまとめ役として関西へやってくることになった。

「ブランディング、マーケティング、メディアプロモーションと、うちの業務は多岐に渡ります。京都と東京で請け負う案件に大した違いはないんですけど、セールス活動は各々の拠点でやっています。せっかく京都にある拠点なので関西の企業中心に支援していきたいという気持ちはありました。でもリモートになってしまって去年むちゃくちゃ悩んだんですよ。正直、事務所なんて要らないんじゃないかって。じゃあ京都オフィスとして何ができるかを悩んだ結果、自分たちのビジョンみたいなものを言語化したんです。僕らが今やりたいことは、”地方創生につながる会社”の支援。首都圏以外の、地方で力を持っている企業が大きくなると、自ずとその企業のまわりで雇用が発生しますよね。そういった企業が成長すれば、結果的に地方創生につながるんじゃないかっていうことを考えていて。東京に行かないと何もできない、ではなく、地方で活動して発信していける。地方が元気な日本にしたいんです。僕が掲げたそんな想いにみんな同意してくれて、今はみんな一致団結しています」。

京都オフィスと言いながらもスタッフの居住地は関西圏の各地に散らばっていて、中には関西ではなく茨城県に引っ越したスタッフもいるという。FICCが地方を元気にする。その一端を担っている村松さんのチームが今関わっているのが「祭エンジン」というプロジェクト。祭エンジンは、支援したいお祭りを運営している神社に、地域の特産品をECサイトで購入することを通して売上の一部を寄付できるという、ふるさと納税のような仕組みになっている。今年もお祭りの開催が厳しい状況が続いているが、プロジェクトの発起人である神輿職人の方から「お金ももちろんだけど”祭を支援してくれる人がいる”状態をつくらないと運営側が頑張れなくなる」という言葉を聞いた村松さん。コロナ禍がすぐには収束しないであろう現状を見て、少しでも祭りの支えになるよう、祭エンジンの支援をライフワークのように続けていきたいと思っているという。


村松さんとスタッフが一丸となって取り組む「祭エンジン」のwebサイト。

そんな熱い想いを持った村松さんが率いる京都オフィスには、個性豊かな15人の仲間がいる。そんな仲間たちに囲まれている村松さんには掲げているミッションがある。それは、「みんなの天才性を解放する」ことだ。

「それぞれみんなやりたいこととか得意なことがあるじゃないですか。そのことにもっと自信を持ったりすれば、みんな何かを成し遂げられるなと。今はチームで動きながらも個人を高めていく時代かなあと思うんです。西洋の星占いでは昨年末から“風の時代”に入ったらしくて、価値観が大きく変わると言われているそうで、ここから150年はその時代が続くらしいです」。

村松さんが語る様子から、社員一人一人をとても大切に、まるで家族のように接している印象がうかがえる。上司という立場もあって親のような目線で見ているのかと尋ねると、笑って首を振った。

「僕は公私同一人物なんで、そういう会社か個人かみたいな感覚は特にないですね。みんながもっと楽しければいいなと。僕が考える良いチームって“仲が良いこと”だと思っていて。言いたいこと言っても、お互いに尊敬しあってて、裏にはちゃんと愛がある、みたいな関係性を築きたいんです。愛がないと相手を傷つけると思うんですよ。僕は愛がない発言や態度には厳しいんです。例えば、オンライン会議でも機嫌悪く見えちゃう人とかいるんですけど、それをそのまま機嫌が悪いって捉えるかどうかはやっぱりお互いの理解の深さだと思っています。ちゃんと理解してればそうじゃないってことが分かりますし、理解するってなるとプライベートもちゃんと知らないと理解しきれないから」。

FICC京都オフィスでは週に一度リモートで共有会を開いており、スタッフそれぞれ「サウナ」や「韓国」といったざっくばらんなお題をとことん調べて深掘りし、資料付きでプレゼンするというコミュニケーションをとっているという。楽しそうにお話しする村松さんの様子からも、普段からスタッフどうし仲が良いことがうかがえる。


好きなことをプレゼンするスタッフ間の交流について楽しげに語る村松さん。

人とのつながりを大事にする村松さんがこんこんに入居したのも、こんこんの立ち上げメンバーや他の入居者ともともとあったご縁がきっかけ。このようなつながりをFICCの仲間にもつくってあげたい、と村松さんは話す。

「以前の事務所だったら、家の方が仕事も楽だし、たぶん誰も行かないと思います。でも、用もないのにここで仕事しようかなって思いたくなるこんこんみたいな場所だったらいいですよね。こんこんに入居している知り合いは、今は僕や一部の仲間がつながってるだけなので、それぞれ一人一人にそういうつながりが作れたらいいなっていう想いが結構強かったんですよ。コロナが落ち着いて出勤しやすい環境になったら、いろんな人との出会い、体験や経験が生まれたらいいなと。東京の企業でも事務所の在り方を考え直して行動しているところがいっぱいありますけど、従来のオフィスの認識を変えるというのを僕もやってみたくて。そのひとつの答えがこんこんなんです。行けば誰かに会って、何か新しいことが生まれる可能性のある場所、ですかね」。

先行き不透明な現在、2年後や3年後の具体的な計画が立てにくいと話す村松さんは、今の仲間とずっと仕事をしたいと思う反面、新しく若い年齢層を雇うことで生まれる化学反応にもワクワクするという。その可能性を検討し続けることも村松さんの役目だ。

「不登校気味だった学生の子とSNSがきっかけで繋がったことがあるんです。光るものを持っていたのでアルバイトで雇ったら能力が開花したことがあったんですけど、そういうの結構面白いじゃないですか。いろんなところに目を向けて、そういうのをもうちょっとやりたいなと思うんですよね。この会社に最初から居るので、入ってきた人や出ていった人を全員見ているんですけど、いろんな人を見届けていく今の役割も好きですね。これはずっと続けていきたいと思っていて。その役割をまっとうする上で、自分が大事にしているのは“良いところを見つける”ということ。どんな人にも絶対に良いところはあるから。悪いところは見ないんですよ、勝手に直せば良い話なので。その代わりに、良いところを見つけて気づかせてあげるという点をすごく大切にしてますね」。

FICCのスローガンは“find a better way”。常により良い方法を探すという意味のこの言葉が村松さんは大好きだと言う。身近な仲間から地方のプレーヤーまで広く深く関わる村松さんが、これからこんこんでどんな “a better way”を見つけるのか。

次にお会いするときは、家族のような仲間のみなさんと一緒にお話をうかがってみたい。

村松勇輝さん

株式会社エフアイシーシーのプロデューサー兼京都オフィス事業部長。スタッフのことは「仲間」と呼び、家では5歳と1歳の息子の子育てを楽しむ涙脆いパパ。

【混ぜるといえば?】スパイス

「スパイスカレー作りにハマっていて、いくら適当に突っ込んでも味が壊れないのが面白いんですよ。塩とかお砂糖って多く入れすぎるとしょっぱくなったり甘くなりすぎたりするんですけど、スパイスは香りだけだからテキトーでいいんです(※個人の意見です)。それがラクで楽しい。混ぜ方、無限!」

写真:三好天都