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#02 日々是口実 「押す力と引く力を意識する」

12月上旬にぬえの社員旅行で城崎へと旅に出た。
城崎の奥地に進むと香住というエリアがある。城崎ほど温泉街でもなく、古びれた漁港とお宿の蟹に全振りした町が広がる。

特に自分の出張も業務上、目的地は決まっているが、それ以外は何も決めないランダムな旅になる。前回の東京出張では翌日になぜか広島で遊んでいたり。僕にとって旅はランダムで気まぐれなものだ。

かわいそうに社員の一人が当日体調を崩してしまった。
当日キャンセルは効かないし、残念と思うよりは面白い展開にしてしまおうと、今日を良い日にするために頭を捻る。そうだ社員の子どもを冒険に連れだそう。すぐさま連絡し「子ども連れてこれる?冒険に出るよ!って誘って」とお願いしたら二つ返事で参加が決まった。

ちなみにコロナになる前には社員が4名いるので東西南北係を決めて、ジャンケンで勝った人のエリアにいくことという遊びを考えていた。北が勝つとウラジオストク。南は台湾。コロナのせいで結局国内と決まった。

無目的の時間から、何かを見つけ出す

宿にチェックイン後、各々が自由に行動をする。風呂に入るものもいれば、酒を飲むものも、僕は散歩が好きなので一人ぶらっと海を目指し歩き出す。知らない町の無数の小さい道を練り歩いく。気が付けば目の前に真っ黒い日本海が広がっている。火曜サスペンス劇場の最後のようなクライマックスシーン。荒れた日本海を眺めて物思いにふける。

仕事も大忙し、宿題もてんこもり、プライベートでも色々と難しい問題が借り物リレーをしているような心が慌ただしい時期でもあった。1時間ほど、日が暮れるまで(蟹のフルコースが出るまで)ボーッと海を眺めて考える。人生ってのはいろいろだーという心情で海を眺めていると波の動きに目が止まった。

押し寄せる力と引く力が同時に起こるんですよ。波って。知ってました?

当たり前すぎて考えてなかったもいなかったけれど、二つの異なる力が同時に巻き起こる。引く力が強いと次に強い押す力が波として戻ってくる。そんな当たり前のことになるほどなぁ〜となった。

合気道のように力を見る

暮らしや仕事でいくと、基本的には「押す」作業だと思っている。
なんというか日々を明日に押し出しているようなイメージでいる。
これが押してばかりだと次の力に繋がらない。僕は押しすぎて疲れていたのかもしれない。

では「引く」作業とはなんだろう?

押すのは今までやってきたことだ。引くをやってみよう。
グッと引く工程を経て、より強い波を生み出すことができるのではないかと思ったのだ。
そんなことを考えていると、ふと幼少期のお風呂の一人遊びを思い出した。
小さい湯船に浸かり、体を少しずつ前へ後ろへと交互に動く。
最初は弱い力だけれど、加速度的に揺れは大きくなり、ジャプンジャプンと湯船全体をゆらす力に育つ。

これも「押す」と「引く」の力の作用なんだ。子どもの頃から知っていたのに松倉青年はそれを忘れていた。
海も大きな湯船だとしたら、地球がジャプンジャプンと世界を揺らしているのだ。

湯船で起こした小さな波は、子どもながらに翻弄されるくらいの力を持っていて、これをまた人生で起こしてみたらどうだろう、なんてことを思う。押すだけ、ではダメ。引くだけ、でもだめ。交互に力の流れを見て合気道よろしく力に寄り添い力を逃す。

ふぅー良い学びがありました。と思いながら、宿へと戻る道端の花壇をみると土の中に蟹の骨がひしめき合っている。なんだこれ…と急にまた思考のスイッチ。

この町では蟹を食いまくる→たくさんの蟹のガラ廃棄が生まれる→この蟹のガラにはたくさんの栄養がある→花壇に突き刺しまくることで土に栄養を与え→町には綺麗な花々が咲き誇るのかぁ

と腹落ちしたけれど宿に着くまでの花壇には冬だということもあるのかカニの墓標と化していた。

蟹の町のミステリー。波で得た学び。元気を取り戻して宿に戻る。

「もう蟹、勘弁してください…」という量の蟹を食べ終え、死んだように眠りに落ちた。