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今混東西#8
1人のものづくりからチームのものづくりへ 。DAY渡部さんが寄り添いたい“日常のワンシーン”


古今東西。
「昔から今まで、東西四方のあらゆる所」をあらわすことばで、
「いつでもどこでも」という意味としても使われます。
歴史が根付く街・京都は、昔と今が混ざり合う場所。
しかし、そこで生まれる化学反応は「昔」と「今」という組み合わせだけでしょうか?

今混東西。
辞書をめくっても、この四字熟語の意味は書いてありません。
仕事も、背景も、興味関心も違う人々が集うこんこんは、「今」が混ざり合う場所。
いろんな「今」が集まり、新しい何かが起きようとしています。
ドアの向こうには、どんな「今」が待っているのでしょうか。


“こんこん”

いつものようにノックをして共用部を覗いてみると、すでにお仕事をしながら渡部さんが待っていた。

今回お話をうかがう渡部さんが代表を務めるDAY inc.は、設計から運営までを一貫して行う会社で、今年で設立3年目を迎える。こんこんの事務所には渡部さんを含めた設計チーム4名が勤めており、他のスタッフはDAYが設計した店舗やホテル等の現場で働いている。スタッフ数はアルバイトを含めると総勢60名を超えるといい、ぐんぐんと成長を続けるチームだ。

一見クールに見える渡部さんの心に宿る熱い想いとは一体どんなモノなのか、さっそくお話をうかがってみた。

インタビューに応じる渡部さん。最初は少し緊張気味の様子だったが、とても的確に自分の気持ちを言葉として紡いでいく。

「もともと大学で建築を学んでいて、その後資格を取って設計士として活動していたんですけど、いつも設計だけではなくクライアント側の別の課題が気になってしまって。毎回求められていない提案までしていたんですが、それも今に至る要因だったのかもしれないですね」

もともとは設計のみだったが、運営まで関わる今のスタイルで仕事をするきっかけになったのは、ゲストハウスの改修工事。

「運営部分にまで及ぶ提案をしているうちに『じゃあ一緒に運営しないか』という話になりました。もともと、設計というよりは場所づくりがしたいという気持ちが大きくて、根っこには“多くの人と関わる仕事がしたい”という想いがあります」

こんこんへの入居は、まさに偶然の出会いだったそうだ。

「事務所がこんこんから徒歩1分のところにあって、ベランダから見えるレベルの近さだったんですよ。新しい地上げみたいなものが始まったのかなあと気になって眺めているうちに建物ができて。『なんだこの建物は!』と思って見学に行ったら、オフィステナントを募集していると知ったんです。その日のうちに会社のメンバーに『面白いところあるから引っ越さへん?』と提案して、すぐ決まりました。何しろ近かったので、引越しも自分たちで、手運びでやりましたね。

当初は根拠のない“楽しそう”という気持ちでしたが、実際に入居したら想像以上にディープで面白いです。僕らは“型”があるような活動をしているわけではないので、こんこんの他のメンバーを知れば知るほど根っこの部分が似てるなあとか、何やってるかよく分からないけど面白い人が多いことが最近分かってきたような気がします」

ずっと京都には居たものの、他業種でおもしろい人と知り合いだったわけでもないため、こんこんで生まれる新たなネットワークが新鮮なのだそうだ。

最近は住宅を設計することも多いという。「何なら自分が住みたい」と思わず本音が出る一場面も。

幼い頃からものづくりが大好きで、釣りのルアーを自分でつくったり、廃材を拾ってきては分解するのを楽しんでいたという渡部さん。大学では選択肢の幅が広そうだと思った「建築」の分野に進み、それが今の“場所づくり”を考える仕事につながる最初のステップだったのかと思いきや、そうではなかったらしい。

「僕、場所づくりとは真逆で、建築そのものにのめり込んだ尖った大学時代を送ってたんですよ。人がどうかとかより作品としてどうか、という考え方にどハマりして、卒業後はアトリエ事務所に行って『自分も建築家になるんだ!』って思ってたような、めちゃくちゃ建築バカでした」

そんな渡部さんに転機が訪れたのは4回生の時。卒業設計の途中で病を患い、長い入院生活を経験することになる。

「自分が健康じゃなくなった瞬間に、それまで大事だと感じていたものが『割とどうでも良いことだったな』と思ったんです。そのくらい価値観が変わりました。入院中に時々、病院内のカフェにお茶をしに行ってたんですけど、そこで過ごす時間がすごく嬉しかったり、日頃から支えてくれた人や、その時身近にあるものって大事だなあと。作品としての建築の魅力より、もう少し生活に根付いたモノをつくる活動がしたいなという気持ちが芽生えたんです。それまでは、『誰のためになるか分からんけど自分の欲求で建物つくりたい!』って思ってやってたんですけど、それはただ自分がやりたいだけのことで。そういう仕事がゆくゆくは役に立つこともあるとは思うんですけど、それよりも、もうちょっと身近なことに取り組んでいきたいと思うようになりました」

昔の自分が今の自分を知ったらびっくりするだろう、と笑う渡部さん。そんな体験を経てつくった会社が、「DAY」だった。

「社名の由来は、まさにその頃の経験からで、純粋に1日ってすごく大事だなあと思ったんです。名前を考えているときに、サービス業や接客、いろいろなことを活動としてやっていく中で、特別な一日をつくる仕事って尊いなあと思ったんですけど、それだけで人生は成り立ってないというか。特別な1日って稀だし、じゃあ日常をどうやって過ごしてるかなと考えたときに、2つのシーンを想像しました。ひとつは、しんどいことがあったときに特別な1日のことを思い出して頑張ろうと思うシーン。もうひとつは、ふらっと立ち寄った飲食店の店員さんがめっちゃ良い感じの人やったり、ご飯がすごく美味しかったりしたときに、救われた気持ちになる、というシーン。そんないろいろな側面が日常にはあって、その時々のシーンに寄り添えるような会社になりたいなあと思ったんです。特別な1日も、普通の何気ない1日も、僕らが主役になるんじゃなくて後ろでちょっとでもそのお手伝いができるような会社。そうなったら良いなあと思って、名前をつけました」

あんまりこういう風に長く話すことはないので、と少し恥ずかしそうに話す渡部さんだが、日頃からスタッフとは気持ちを共有するようにしているという。一人ではなくチームでつくりあげる「会社」という業態を選んだことにも、理由があった。

「一人だと、できることに限界があるじゃないですか。収益性や生活面だと一人の方が楽なんですけど、ただ楽をしたいわけでも、お金を稼ぎたいだけというわけでもない。自分がいいなあと思ったものを、共感してくれた仲間と一緒につくりたい…という気持ちが一番強かったので、会社というか、チームづくりが必要だと感じました。究極、自分は前に出なくていいし、やったことの内容が全てで、みんなの仕事だと思っています。でも未だに1人で没頭することも好きだし、みんなで何かをするのも好きだし、それは昔から変わってないですね」

DAY事務所内にて、設計チームの田原さんと。友人同士のような楽しげな空気が流れる。

単純に、みんなで何かに取り組むときのテンションが上がる“祭り感”が好きだという。「もともと悪ガキだったんですけど、フッと冷めた瞬間からそのまま大人になってしまったので今再燃しているのかも」と笑う渡部さんは、とてもいきいきとしていた。

そして、今はその“祭り感”をこんこんを通して体感することもあるという渡部さん。こんこんの仲間たちと何かテーマを設けて話すならどんな話題をぶつけたいか聞いてみた。

「今、ひとつだけ新しい仕事を始めることができるならどんなことをするのか、気になります。みなさんいろいろな仕事をされているし、いろいろな考えを持っていると思うんですけど、一個しかできないってなったときに自分たちだったら一番何がしたいのか、みたいなことを聞いたり話したりしたいなあと。そういう会話をすると意外と自分が考えていなかったようなことが出てくるかもしれないし、忙しい時ほど突き詰めるより先に進むことを考えたりもするので、本質の部分をその場のノリで話せるといいなあと」

これからのことを楽しそうに話す渡部さんは時折、学生時代真っ盛りのような熱量を見せてくれた。

まだ学び足りない、人生三周くらいしたいと、インタビュー中もやりたいことや考えていることが溢れ出している様子だった渡部さん。こんこんもまた、渡部さんの新たなステージのようだ。

渡部さんとDAYの仲間たちが寄り添う日常には、この先どんなシーンが待っているのだろうか。


こんこんのフレンズの間ではアッキーと呼ばれている渡部さん

仕込み中のプロジェクトはこれから一気にお披露目予定

DAYチームで一緒にいる時は大抵にやにやしてる。仲が良い。

愛機の肖像

呑むのが好き。こんこん自治会でふと差し込むコメントが秀逸である。

オフィスにある武田鉄平さんの作品

建築のための沢山のマテリアル

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渡部明彦さん

有限会社DAY代表取締役。本人曰く「猛烈に気になるタイプ」で、スタッフからも「細かいところまで気にしすぎ」と言われることもしばしば。目下の目標は、スタッフからランチに誘ってもらうこと。

【混ぜるといえば?】
納豆。僕はご飯にはかけず、おかずとして食べます。普段使っている箸が竹製のすごく細いやつで、お気に入りなんですけど納豆を混ぜるときだけはすごく不便なんです。プラスチックの容器に刺さりそうで…もっと混ぜて粘り出したいのに。

写真:川嶋克