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今混東西#13
全ての道は児童館に通ずる!?自治と設計のバランサー・榊原さんの考えるこれからの都市の在り方とは


古今東西。
「昔から今まで、東西四方のあらゆる所」をあらわすことばで、
「いつでもどこでも」という意味としても使われます。
歴史が根付く街・京都は、昔と今が混ざり合う場所。
しかし、そこで生まれる化学反応は「昔」と「今」という組み合わせだけでしょうか?

今混東西。
辞書をめくっても、この四字熟語の意味は書いてありません。
仕事も、背景も、興味関心も違う人々が集うこんこんは、「今」が混ざり合う場所。
いろんな「今」が集まり、新しい何かが起きようとしています。
ドアの向こうには、どんな「今」が待っているのでしょうか。


“こんこん”

いつものように事務所のドアをノックすると、何やら打ち合わせの真っ最中。すみません!今あけるので!と言わんばかりの勢いでスタッフさん数名が入れ違いで出て行くのを見届け中を覗くと、細長いコンテナの一番奥で榊原充大さんが待っていた。雑誌がずらりと並ぶ棚や壁に貼られたポスターなど、気になるアイテムを視線で追いながらこの連載コーナーの説明をさせていただく。またしても個人的な話になってしまうが、事前にいただいたプロフィールで榊原さんが同郷だということを存じ上げていたので、冒頭でちゃっかり地元トークまで繰り広げてしまい、おかげで和やかにインタビューをスタートできた。

榊原さんが代表を務める株式会社都市機能計画室、通称POUF(プフ)の仕事は、建築や都市にまつわるコミュニケーションやリレーションズと呼ばれるような部分のデザインをしている。公共施設をつくる際、自治体とタッグを組んで、住民や関係者の意見を設計チームに共有・反映しながらプロジェクト進めていくような仕事。シティプロモーションやキャンペーンの戦略から運営までを担当することもあり、現在携わるプロジェクトのエリアは京都に限らず、東京、愛知、長野、大阪、山口、遠いところでは北海道と幅広く、地域の方々とうまく連携しながらコミュニケーションの機会をつくっていくのがねらいとのことだ。

インタビュー中、こちらの質問から次々とお話を広く深く掘り下げてくださった榊原さん。さすが人と人との繋ぎ役…!

「子どもの頃は、“おじさんぽい”と言われてました。ようやく実年齢と帳尻が合ってきた感じですね(笑)。高校時代、クラスで何かやる時に最初はみんなノリで盛り上がるけど、最終的に先生に直談判するのは自分だけだった、ということがありました。『みんなで何かやりましょう』ってなったらマジになるタイプ。客観視するとめんどくさい人です。大人になった今、周りの人たちの反応を見ながらやりすぎてないかどうかをチューニングしてます。できているかどうかはわかりませんが。

建築に興味をもったきっかけは、高校3年生のときに世界史の資料集で見た、ドイツにあるケルンの大聖堂です。小さい写真でしたが異様なデカさが伝わってきました。建物がデカいってことは、そこにはすごくたくさんの人が関わるんだろう、そしてその建物は膨大な人に影響を与えるものなんだろう、と考えたんですね。そのときが建築が面白そうだなと思った最初だったと思います。父親が内装屋をしていて建物には馴染みがあったのと、家が愛知県の半田市にあるんですが、近くに赤レンガ倉庫(現:半田赤レンガ建物)があったことも影響しているかもしれません」

高校時代、文系だった榊原さん、大学受験の段階でいきなり理転するのはきびしいと判断し、文系でも建築を学べるところという探し方で神戸大学にたどり着く。神戸大学では工学部で建築設計を学ぶこともできるが、榊原さんは文学部で芸術学を専攻し、同期が映画や音楽などを選ぶ中、研究対象として建築を選んだ。いわゆる「表象文化論」と言われるジャンルで、学部生時代から先生について学会等に顔を出し、後のネットワークを構築していったという。過去の建築がどう語られたのかをたどったり、写真や図面がどう分析できるかについて読み解いたり、設計に留まらない建築と人との接点を考えるという方法は、榊原さんの今の仕事に活かされているのだそうだ。

大学卒業後、大学院進学も検討したものの、建築の設計でも研究でもない領域を仕事にしていきたいと考え、そのため建築士の資格を取るべく京都の専門学校に通い、2年の勉強を経て資格を取得。その間に参加したイベントで知り合ったのが、後に建築のリサーチプロジェクト「RAD-Research for Architectural Domain」を一緒に立ち上げることになる川勝真一さんだった。当時、設計の組織はあっても表立って“リサーチ”を活動にする人は少なく、川勝さんが目指すものに榊原さんも共感したのだという。フリーランスのメンバーによるRADとしての活動は2008年から2023年まで続くのだが、組織としての動きやすさや自治体からの受託のしやすさなども考え、2019年に自身の会社「株式会社都市機能計画室」を設立。固定メンバーではなく、プロジェクトごとにカメラマンやデザイナーに入ってもらったり、興味のある学生にアルバイトとして手伝ってもらったりしながら活動している。インタビュー前に打ち合わせをしていたのも、進行中のプロジェクトに関わる若いメンバーらしい。

「来てくれる人は基本的に全然ウェルカムって感じです。こんこんのウェブを見て来ました!っていう建築専門の人もいるんですけど、地元の人たちと話しながらプロジェクトを進めていくやり方を知りたい、と言ってくれる人もいました。ちゃんと考えて活動しているんだなあと感心しながら、うちで提供できることがあれば何でも言ってくれ!という気持ちです」

事務所の本棚にはカルチャー誌の金字塔「relax」がずらり。ほぼコレクションと化しているそう。

住民と設計チームの橋渡しは、ひとことで言うなら「合意形成をする仕事」。戦略的に議論を導くこともある反面、やはり人と人の問題なので全てがロジカルに進められるとは限らない、と榊原さんは話す。

「総人口が数十人であれば別として、地元の人たち全員に話を聞くというのは現実的ではなく、全員で合意形成することはほぼ不可能なので、ある程度“合意形成が成されたと言える状態”をつくるイメージですね。でもそれは考え方によっては“アリバイづくり”のように捉えられてしまうことでもあります。それを誤解だと一蹴するのではなく、批判をしっかりと受け止めることも、ときには必要だと個人的には思っています。もちろん僕もその点に関しては矜持があるので、形だけではなく、いかにできることをクリエイティブにやっていけるか、という思いでプロジェクトには向き合っています。昔、『おまえは何がしたいのか』と問われたときに直感的に『人を説得する仕事をやりたいのかもしれない』と言ったことがあるんですが、確かに“説得する”っていうモードも自分にとっては大事かなと感じています」

大きくわかりやすい何かを売りにするよりも、細かく丁寧に対話する。自分たちのような動き方をする人が増えていってほしい、と話す榊原さん。やってよかった、こうやって意見を拾ってもらえるんだ、という参加してくれた人たちの満足度も重要で、そういった想いが自治体に浸透していくことがとても大切なのだという。加えて、結果的にどう効果として現れたかという部分をきちんと見えるかたちにすることも仕事の一環だそうだ。

これまで様々な自治体と一緒に活動してきた榊原さんにとっての「都市」とはどういうものなのだろうか。

「都市の定義は人によりけりですが、個人的には“匿名でいられる規模感”が都市かなと。だから、隠れ家のような場所を求めてみんな都市に行く。村との対比ですね。セーフティネットも、刺激も、出会いもある、そんな都市でこそ楽しく暮らせる人間だと僕自身のことを思ってます。ベッタリしたコミュニティの中で動くということが元々できず、保守的な愛知の田舎を出てきた人間なので」

同じくこんこんに入居するデザイナー・白木友子さんらと一緒につくったというZINE。白木さんのストーリーはまた別の機会に…。

お話の中で、そんな榊原さんに影響を与えたある施設の存在が浮かび上がってきた。

「そうそう、子どもの頃は家の近所にあった児童館に通ってたんです。児童館ってよく考えるとヤバイ施設ですよね。いつでも誰でもタダで遊べるし。『あ、今日はあいつとあいつが居るな』みたいな感じで、自分にとって児童館って『誰かが揃わないと何かができない』じゃなくて、『そこにいるメンバーで何かしよう』っていう場所で、すごく居心地が良かったんですよね。別に学校が嫌いだったわけではないんですけど、自分に合っていたのは児童館だったのかなあと思います。ほんと、毎日のように通って児童館を使い倒してました。あまり施設に対して文句を感じたこともなく、サイコーな場所だなと思っていました」

もしかしたら、こんこんも児童館っぽいのかもしれないですね、と榊原さんは付け加えた。事務所を新しく借りたいと思ったタイミングで昔から仲が良かった川端さんにこんこんを紹介され、2022年2月から入居してもう1年が経つ。自身の自宅を仕事場にすることもあり得たが、手伝ってもらう人たちにとってはこんこんのような場所の方が便利だと考え、プロジェクトのミーティング等で使うようにしているそうだ。やると決めたらとことん取り組む榊原さんは、2022年に開催されたこんこんの夏祭りでも屋台のおじさんコスプレで本気の型抜き屋を出店するほどにこんこんライフを楽しんでいる。

「今日のインタビューで新しい発見がありました」と、児童館からの影響の強さを再認識していた榊原さん。

そして、榊原さんがゆくゆく目指すことは。

「夢に近い話ですが、気合いが入っている自治体の、ポジティブな意味でのランキングをつくりたいなと思っています。アナウンサーの安住紳一郎さんがもう十数年続けている「安住紳一郎の日曜天国」というラジオ番組があるんですけど、一時期、各市区町村の人口に対するメッセージ投稿数の割合を『ハッスル係数』として算出して、その地域の「熱量」のランキングをつくったことがあったんです。1位になった地域で公開収録するというルールだったと思うんですが、観客の移動費などをたしか安住さん自身が捻出するというお金も時間もかかる企画でした。なんとか1位をとろうと首長が市民に動員をかけるような自治体も出てきたりして、日曜天国リスナーのみに留まらない社会現象が巻き起こっていました(笑)

自治体の価値がハッスル係数だけで測られるものでないことは当然ですが、公共事業に関わる側としては熱量の高い自治体のプロジェクトをやりたいと思っているので、同じようなランキングがつくれないかなといつも頭の片隅にあるんです。気合いが入っている自治体職員さんのことを「スーパー公務員」なんて呼ぶこともあるんですが、それを属人性の問題だけにするのではなく、その事実を価値に変えていかないと良い影響が広がっていかないんじゃないかなと。ランキングというとやや軽薄に感じる人もいると思うんですが、『この状態が“良い”っていうことなんだな』という感覚を自治体の人たちにも認識してもらいたいんですよね。建築を発注するのは自治体であって、条件を生み出す側の自治体がどれだけクリエイティブかっていうのが今後ますます大事になってくると思います」

「建物をつくる建築」というよりは「仕組みの建築」。建築や都市計画のプロセスの中で、どうやったら住民が関われるポイントが増えるのか。過去にそれらに携わってきた数々の先輩方の研究をつないでいくように、榊原さんは榊原さんなりのやり方で仕事にできる領域を広げている。

楽しく過ごせる心の児童館のような場所をめざして、榊原さんは今日も地域へ一歩踏み出す。

*記事の内容は、2023年4月取材時時点の内容です。


榊原充大さん

株式会社都市機能計画室(POUF/プフ)の代表取締役。とにかく枠から外れたい。カラオケボックスよりはカラオケスナックが好きで、スピーカーとマイクのセットを持ってときどき鴨川で青空カラオケをしている。

【混ぜるといえば?】
「なんとなくみんなと共通の質問に答えるの苦手なんですよね……混ざらなくてごめんなさい」

写真:川嶋克