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今混東西#14
はぎーさんの恩返し〜文化と国境を越えた、こんこんで一番賑やかな場所〜


古今東西。
「昔から今まで、東西四方のあらゆる所」をあらわすことばで、
「いつでもどこでも」という意味としても使われます。
歴史が根付く街・京都は、昔と今が混ざり合う場所。
しかし、そこで生まれる化学反応は「昔」と「今」という組み合わせだけでしょうか?

今混東西。
辞書をめくっても、この四字熟語の意味は書いてありません。
仕事も、背景も、興味関心も違う人々が集うこんこんは、「今」が混ざり合う場所。
いろんな「今」が集まり、新しい何かが起きようとしています。
ドアの向こうには、どんな「今」が待っているのでしょうか。


“こんこん”

建物1階の一番奥。ひっそりとした、でもどこか暖かみを感じる佇まいの扉をノックする。これまでに取材で何回か訪れた時にも「ここにはどんな人が居るんだろう?」と気になっていた区画だ。

扉が開くと、この部屋の主である萩永麻由加さん、通称はぎーさんが笑顔で出迎えてくれた。はぎーさんはここで「BONCHI Kyoto」という、主に外国人旅行者の方々に向けたミニチュア製作ワークショップを企画、運営している。

初めてお会いしたはずなのに、前から知っていて久しぶりにお茶を飲みに来たかのような親しみを覚える。みんなからはぎーさんと呼ばれていると聞き私もそう呼ばせてもらうことにしたが、これまた妙にしっくりくる。

そんな落ち着いた空間で、はぎーさんがいったい何故ワークショップを、しかも海外の方に向けて展開しているのか、詳しくうかがうことにした。

そもそもはぎーさんは、元々ミニチュアを作るのが好き、といったような理由で始めたのではないという。現在のはぎーさんを語るのに欠かせないのが、10年近く前に渡航したポートランドでの出来事だ。

「京都で出版社に勤めていたとき、この頃街に海外の方が増えてきているけどみんな何を見に来ているんだろう?と思っていたんです。ある時、人通りの少ない路地を歩いている海外の方に話しかけてみたら“広い通りより狭い通りを歩く方が楽しいので”と言われて、ああ、そういう感じなのか!と。

私は雑誌の仕事していたんですけど“こういう道を行ってみよう!”という特集記事を組んでいるのに、相手の顔が見えへんなってずっと思ってたんです。仕事はめっちゃ忙しかったんですけど、その頃1週間くらい休みをとってアメリカのポートランドに行って、現地のカフェでコーヒーを飲んでいたら、みんながおすすめスポットを教えてくれて。地元の方が「ここのビール飲んだ?まだなら絶対行った方がいい!」とか、「ビーチ行った?2時間で行けるから絶対行きなよ!」とか。その時、こういうのって私がやりたいことかもしれんなあって思って。それで、その旅が楽しすぎて帰ってきて仕事辞めたんですよ(笑)」

仕事は楽しかった反面、疲れているタイミングだったと話すはぎーさん。ポートランドで癒されて、旅行で仕事にもブランクがあったので、思いきって辞めるという選択をしたのだそう。そんなはぎーさんの次なる目標は、観光ガイドだった。

「当時、ガイドになるには通訳案内士の国家資格が要るということを知らなかったんです。資格試験を受けたんですけど、問題量も多く、大学受験並みに難しくて。英語も喋れんし、これは案内でけへんわと思いました。でも刺激を受けるためにアメリカにもう一回行こうと思って、アメリカ人の友達の実家にホームステイさせてもらったりとかして、とりあえず英語の勉強だけしました。その頃、ガイドもできへんし、何やったら私にできるのかなって考えてた時に、初めてZINEを作ったんですよ。編集の知識もあったので自分で作って、それを売るためにアメリカに行きました。そのZINEの中に、ご飯について書いたページを入れたんです。ZINEはモノクロだから、実際にこのご飯を作って見せることができたら楽しいなと思って、YouTubeを見よう見まねでミニチュアを作ってみたら、私にもできて。めちゃめちゃ楽しかったんですよね」

その頃、世間でもAirbnbで“体験”を提供するという流れが始まっていた。はぎーさんもミニチュア作り体験として第1弾目の公募に応募したが、アーティストでもなく実績もないという理由で落選。しかし、2020年の東京オリンピック開催が決まったタイミングで、ガイドの人員確保に向けて2018年からは通訳案内士の資格なしでもガイドをしてよい、という法律に変わったのだという。

「京都で1時間くらいの観光ガイドとセットにして、実際に食べた物をミニチュアで作って帰れる、このコースでどうや!って提案したら、Airbnbの人もそれやったらいいんちゃうって言ってくれて。仕事を辞めて2年後の2017年12月から始めました。やってみたらすごく楽しくて、私がアメリカに行ったときに現地の方にしてもらったことの恩返しというか、旅行に来た人に楽しんで、良い思い出を作って持って帰ってもらいたいな、というのが根底にありますね」

「得意だから」ではなく、「これをやりたい」が起点になっているはぎーさん。ミニチュア作りは早い人でも90分、時には1人で2〜3時間没頭する人もいるといい、訪れた方と親密な時間を共有する体験だ。そんなワークショップを運営できるのは、「楽しませたい」という気持ちがあるからだと話す。

「ミニチュア作りがそんなに上手とも思ってないですけど、例えば、歯ブラシを使うとみんな楽しいんですよね。これを使ったら楽しいし、この工程はすごい楽しいやろなとか、そういうことを考えるのが好きで。そこは得意なのかもしれないです。この道具をここで使うんだ!とか、子どもは次はどうするの?って、ちょっと待ちぃ!と言いたくなるくらい前のめりで。喜んでくれてるんやろなーと思います。

たぶん、来る人が“コミュニケーションを取ろう”と思って来てくれてるからだと思うんですけど、本当にそこに語学は要らんのやなって。勉強したけど実際そこまで使っているわけじゃなくて、みんなこっちが伝えたいことを分かろうとしてくれるし、なんか、癒ししかない(笑)こっちがお金払いたいくらいなんです」

はぎーさんは、ここに来る“人”を見てほしいから、NHKのドキュメント72時間みたいなやつ来ぃひんかな、と冗談めかして話す。Google MapのBONCHI Kyotoへのコメントを見ても「ホスピタリティが最高」というコメントが多く見られ、訪れる人々に愛を持って接していて、コミュニケーションを大事にしていらっしゃることが伝わってくる。

そんなハートフルなお話を聞いているさなか、タイミングぴったりと言わんばかりに海外の方の来客が。先ほどこんこん入口に店を構えるバル、TARELさんに来たがお休みで、代わりにはぎーさんが二条小屋という店を紹介したところ、わざわざお礼を言いに来てくれたのだとか。ミニチュアを購入し、記念撮影もして帰って行った。

「キュンとしますよね。毎日こんなことが起こってて、幸せってこういうことなんだなと。なんかそういう場所ですよね。こんこんのみんなもそうだし、そういうのが生まれる場所だと思っていて、ここに引っ越してきて本当に良かったなと思って。」

はぎーさんはもともとTARELの坂本さんと少し繋がりがあり、こんこんの建物自体もできた頃から知っていたという。建設に関わった魚谷さんや川端さんも以前からの知り合いで、移転しようと思っている時期にTARELさんの奥あいてると聞いて実際に見て気に入り、ほかの場所はあまり見ずに入居を決めたそうだ。

「お客さんには、来る前にメールとかでやり取りをするんですが、アクセスについてはTARELさんのところから入ってくる動画を撮って、それをインスタにアップしてリンクを送ってるんですよ。みんなそれで冒険者になった気分でここだー!って見つけてくれて。川端さんも時々うろうろしてるし、こんこんのみんなもお客さんが迷っていたらこっちだよって教えてあげてくれるんです。それもすごく嬉しいなあと思っていて、感謝ですね」

はぎーさんは、昨日来たお客さんがあいた時間に書いてくれた、とメッセージを書いてくれたものを見せてくださった。たこ焼きのマヨネーズが余って、一緒に来た方がうどんを作り終えるまでの待ち時間に“ありがとう”のつづりを調べて書いてくれたのだという。

「ワークショップが終わって帰る時に、子どもとかだとたまにスキップして帰るんですよ。あと、2人で来てるとかだったら2人が作品入ったカバンを受け取ってキャッキャしてる後ろ姿が、ああ、今日も良かったって目に見えてわかって。ありがとう、は誰でも言えるんですけど、さっきみたいにまた帰ってきてくれるのは、もう、最高の感じですよね。そういうわかりやすい答えがもらえた時に、よくできた、成功って思うかな。今日はあの2人にコーヒー屋さんを紹介して100点やったかなとか。

実は結構必死で、英語っていうのもあってお客さんが言ってることがわかんないこともあるし、ミニチュアも人によってはできるできひんがあるし。私も100%こうやったら良いよって答えられないこともある。途中で失敗することもあるから、それを最後まで失敗って気づかせないようにしなきゃとか。失敗の原因がこっちの言い忘れだったこともあるし、向こうが勝手にやってしまった場合もあるけど、私の“あかんやん!”て気持ちが前に出たら相手がめっちゃ焦ると思うから、ジェスチャーでおどけてみたり。それで、最後まで無事に終わって、ほんま今日も良かった〜って思ったあとにスキップとか、喋りあってるの見たりとか、という感じですね」

ミニチュアを媒介に、お客さんとエナジーの交換をし合っているようなはぎーさん。仕事のことや資格のこと、悩みながら前に進み続けてきた結果、はぎーさんにしかできない最高の方法に辿り着いていたのだと感じる。

「さっきの人も、戻ってきて作品を買ってくれて嬉しかったけど、きっと3回くらい引っ越したら捨てちゃうこともあると思うんですよね。でもこれは、自分で作ったものは本当に捨てないやろうなと思って。この空気感とか、一緒に来た人との旅全部が良いなあと思って。

“方法”なんですよね。結局日本的だし、来る人はミニチュアを飲食店の前に置いてあるやつのちっちゃいバージョンだと思ってるんです。だからあれを見て感動して来るって人もいるんですよね。今はツアーとセットのパッケージではやってないんですが、ミニチュアはミニチュアで作るだけのコース、ツアーはツアーで週1回とか、自分で散策できたらやってみたいと思ってます」

また、今後はこんこんという土地をうまく使ったチャレンジも考えているという。

「TARELさんが出してるプレートみたいなやつをミニチュアで作ってみたりとかもしてみたいですね。前から夢なんですけど、どこにご飯食べに行ったらいいか聞かれることも多いから、このあたりの地図と商品のミニチュアを作って、お客さんが来たら案内したり。それはこんこんだけでなく、ほかの人にも見てもらえたらと思っています。

ここがどうしても”作る人”だけのお店になっちゃってるんですよね。今もそうなんですけど、引っ越してくる前の事務所も通り沿いだったのに入りにくくて。用事がなくても、さっきの2人みたいに来てもらえる何かがあれば良いなあと思っています。何か買ってくれなくても良いんですよ、私は案内するのが趣味やから(笑)来て喋ってたら楽しいし、その喋ったことがまたZINEのネタになったりミニチュアのネタになったり、商売はそっちでしていけたら良いなと思うので。ミニチュア博物館みたいなのもできたらいいな」

編集の仕事をするようになってから“人に伝えたい”という想い膨らみ、その気持ちが“好きなこと”に繋がっていったはぎーさん。「英語も喋れてる風に見えるかもしれないんですけど、それは伝えたいって気持ちが先に来るから。私ができたんだからみんなできると思う。やってみたらまた世界が変わるかもしれない」と、背中を優しく押してくれるような言葉もくださった。

ポートランドから始まったはぎーさんの恩返しの物語は、さらなるチャレンジ精神と楽しむ気持ちを乗せて、これからも続いていくのだろう。


萩永麻由加さん

ミニチュア作り体験ができるBONCHI Kyotoを営む。Bonchiは京都盆地の盆地が由来で、ポートランドが「スタンプタウン(切り株の町)」と呼ばれていることにちなんで名付けたという。ロゴデザインは、ポートランドのガイド本を担当した際のデザイナー・大西真平さん。

【混ぜるといえば?】
「“色を混ぜる”はすごい使いますね。粘土に対してもミックスって使ってるとお客さんが『ああ、〇〇ね』って言ってくれるんですよ。それでもう毎日毎日勉強で。みんな英語の先生なんです。英語を勉強したいっていう人に、ここに来て横でずっと手伝ってくれたらいいよって言うんですけど、誰も来てくれない(笑)毎日、誰よりも混ざってる自信があります」

写真:川嶋克